障害年金を請求する上で、初診日は非常に重要な意味を持ちます。
要件となる初診日要件(加入要件)や保険料納付要件をみる基準は、初診日とされています。また、多くの場合、障害認定日(障害の程度を認定する日)も、初診日により決まります。
初診日が違っていると、せっかく請求にこぎつけても書類が返戻となったり、最悪の場合、前提となる保険料納付要件を満たさないこともありますので、初診日は正確に確定する必要があります。
初診日とは
初診日とは、障害の原因となった病気や怪我について、初めて医師または歯科医師の診察を受けた日です。診療科が違っても、診断がついていなくても、誤診であっても、医師または歯科医師の診療を受けていれば、初診日とされます。
なお、整骨院、ほねつぎ、鍼灸院等を受診した日は初診日とは認められません。
初診日について、具体的には、次のように例示されています。
- 初めて診療を受けた日(治療行為又は療養に関する指示があった日)
- 同一傷病で転医があった場合は、一番初めに医師等の診療を受けた日
- 過去の傷病が治癒し同一傷病で再度発症している場合は、再度発症し医師等の診療を受けた日(※1)
- 傷病名が確定しておらず、対象傷病と異なる傷病名が記入されていた場合であっても、同一傷病と判断される場合は、他の傷病名の初診日
- じん肺症(じん肺結核を含む)は、じん肺と診断された日
- 障害の原因となった傷病の前に因果関係があると認められる傷病があるときは、最初の傷病の初診日(※2)
- 先天性の知的障害(精神遅滞)は出生日(※3)
- 先天性心疾患、網膜色素変性症などは、具体的な症状が出現し、初めて診療を受けた日
- 先天性股関節脱臼は、完全脱臼したまま生育した場合は出生日が初診日、青年期以降になって変形性股関節症が発症した場合は、発症後に初めて診療を受けた日
- 健康診断を受けた日(健診日)は、初診日として取り扱わないが、初診時 (1番最初に受診した医療機閑)の医師の証明が添付できず、医学的見地から直ちに治療が必要と認められる健診結果である場合、請求者から健診日を初診日とするよう申立てがあれば、健診日を初診日とできる
(※1)医学的には治癒していなくても、社会的に治癒したとみなされる「社会的治癒」も含まれます。
(※2)「相当因果関係」をいいます。詳しくは次項をご覧下さい。
(※3)知的障害(精神遅滞)を含まない発達障害は、自覚症状があって初めて診療を受けた日が初診日となります。
相当因果関係とは
相当因果関係とは
相当因果関係とは、「前の疾病または負傷(A)がなかったならば、後の疾病(B)が起こらなかったと認められるかどうか」をいいます。
認められれば相当因果関係ありとして、前後(複数)の傷病を同一(ひとつ)の傷病として取り扱うこととされます。したがって、この場合、後の疾病(B)の初診日は、前の傷病(A)により初めて医師の診療を受けた日です。
ただし、後の疾病(B)には、通常、負傷は含まれないこととされています。
たとえば、前の傷病(A)により倒れて頭部を打撲し、障害等級に該当する障害の状態になったとすれば、前の傷病(A)がなければ頭部打撲が起こらなかったしても、両者に相当因果関係は認められず、初診日はあくまでも頭部打撲の日と取り扱われます。
逆に、負傷が原因で、なんらかの疾病を生じた場合は、相当因果関係ありとして、負傷した日が初診日となります。
相当因果関係の具体例
厚生労働省では、相当因果関係について、次のように例示しています。
(1)相当因果関係ありと取り扱われることが多い例
- 糖尿病と糖尿病性網膜症又は糖尿病性腎症、糖尿病性壊疽(糖尿病性神経障害、糖尿病性動脈閉鎖症)
- 糸球体腎炎(ネフローゼを含む)、多発性のう胞腎、慢性腎炎に罹患し、その後慢性腎不全を生じたもの(両者の期間が長いものであっても、相当因果関係ありとして取り扱う)
- 肝炎と肝硬変
- 結核の化学療法による副作用として聴力障害を生じた場合
- 手術等による輸血により肝炎を併発した場合
- ステロイドの投薬による副作用で大腿骨頭無腐性壊死が生じたことが明らかな場合
- 事故又は脳血管疾患による精神障害がある場合
- 肺疾患に罹患し手術を行い、その後、呼吸不全を生じたもの(肺手術と呼吸不全発生までの期間が長いものであっても、相当因果関係ありとして取り扱う)
- 転移性悪性新生物は、原発とされるものと組織上一致するか否か判定し、転移であることを確認できたもの
(2)相当因果関係なしと取り扱われることが多い例
- 高血圧と脳出血又は脳梗塞
- 糖尿病と脳出血又は脳梗塞
- 近視と黄斑部変性、網膜剥離又は視神経萎縮
社会的治癒について
社会的治癒とは
社会的治癒とは、年金や健康保険など社会保険法上の考え方で、次のように定義されています。
傷病が、医学的な意味では治癒したとはいえないが、その症状が消滅して社会復帰が可能となり、かつ、投薬治療を要せず、外見上治癒したと見えるような状態がある程度の期間にわたって継続すること。
障害年金では、傷病が治癒したのちに再発した場合は、再発して初めて医師等の診療を受けた日が初診日と扱われており、社会的治癒も治癒に準じて扱うことと考えられています。
つまり、社会的治癒が認められることにより、初診日が、医学的な意味での初診日より後に変わります。
社会的治癒が認められるために必要な期間は、具体的に何年と決まっているわけではありません。おおむね5年程度が目安といわれていますが、あくまでもひとつの目安であり、実際には傷病の特質、経過、寛解期間の状況などから総合的に判断されることになります。
なお、社会的治癒は、投薬治療を全く必要としていなかった場合だけでなく、維持的・経過観察的な治療が継続していたり、ごく軽度の障害があっても認められる場合があります。
社会的治癒が認められることによるメリット
社会的治癒により初診日が変わる効果として、次のようなケースが考えられます。
- 医学的な初診日では保険料納付要件を満たさないが、社会的治癒後の初診日では保険料納付要件を満たし、障害年金が受給できる。
- 医学的な初診日は国民年金のみに加入していたが、社会的治癒後の初診日は厚生年金加入中の期間にあるため、障害厚生年金が受給できる。
- 医学的な初診日は20歳前にあるが、社会的治癒後の初診日は20歳後にあるため、所得制限がない。
- 初診日が後ろに変わることにより、障害認定日請求ができることになり、遡及分も受給できる。
- 初診日が後ろに変わることにより、受給できる障害厚生年金の金額が高くなる。
社会的治癒の留意点
社会的治癒が認められるかどうかを判断するのは、審査をする認定医です。請求する側で「社会的治癒だ」と決めて、医学的な初診日をなかったことにするのはNGです。
障害年金の請求時に提出する病歴・就労状況等申立書には、医学的な初診日から全て記入する必要があります。その上で、社会的治癒を主張する期間については、治療の必要がなかったことや、通常の社会生活を送っていたことなどがわかるように記入し、できる限り、それを裏付ける資料を添付します。
また、年金請求書の「初診日」の欄には、社会的治癒後の初診日を記入して提出します。
なお、社会的治癒は、あくまでも請求する側の救済のための考え方であり、審査する側がこれを持ち出して、不利益な取扱いをすることはできないものとされています。
逆にいえば、審査する側から社会的治癒を持ち出して、有利な認定をしてくれることもありません。あくまでも請求者の側から主張する必要があります。