障害年金を請求するためには、一部の例外を除き、「受診状況等証明書」という、初診日を証明するための書類が必要です。
この書類は初診の医療機関で作成してもらうことが原則ですが、長い年月をかけて病状が進行していたり、障害年金が請求できることをご存じではなく、初診日から相当長い期間が経過し、すでにカルテが廃棄されていたり、医療機関自体がなくなっているというケースも少なくありません。
これが障害年金の請求を難しくするひとつの要因になっています。
ここでは、初診日の証明が取れない場合に、どのような方法があるか解説します。
初診の医療機関にカルテが残っていない場合
レセコン等に受診記録が残っている場合
初診の医療機関で「カルテが廃棄されているため証明できない」と言われた場合でも、レセプトコンピュータなどに、受診日などの記録が残っているケースがあります。
この場合には、残っている記録からわかる範囲で受診状況等証明書に記入してもらいます。
結果として、初診日や終診日のみが記入され、あとはほとんどが「不詳」や「不明」になる場合もありますが、たとえば精神疾患で心療内科や精神科を受診しているなど、傷病によっては診療科の記載のみで初診日認定される場合もあります。
初診の診療科が内科や整形外科などでは、それのみでの初診日認定は難しくなりますが、他の資料とあわせて提出することにより初診日と認定されることは多いため、初診年月日だけであったとしても、証明してもらうメリットは大きいといえます。
レセコン等の受診記録も残っていない場合
受診記録がなにも残っていなかった場合や、医療機関が廃院されている場合、「受診状況等証明書が添付できない申立書」という書類を提出する必要があります。
このとき、次のような書類が残っていないか確認し、残っている場合は添付します。
- 身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳
- 身体障害者手帳等の申請時の診断書の写し
- 生命保険、損害保険、労災保険の給付申請時の診断書の写し
- 交通事故証明書
- 労災の事故証明書
- 事業所の健康診断の記録(健診日を初診日として申立てする場合)
- インフォームド・コンセントによる医療情報サマリー
- 健康保険の給付記録(健康保険組合や健康保険協会等)
- 次の医療機関への紹介状
- お薬手帳、糖尿病手帳、領収書、診察券 (可能な限り診察日や診療科が分かるもの)
ほかにも救急搬送の証明書、メガネやコンタクトレンズ作成時の記録(眼の障害の場合)、家計簿や手帳の記録、通知表の生活記録などが参考になった例もあります。
ひとつだけでは初診日を証明できなくても、合わせ技で証明できる場合がありますので、少しでも参考になるものがないか、探してみて下さい。
あわせて、次に受診した医療機関に「受診状況等証明書」を依頼します。
もし、次に受診した医療機関にもカルテや受診記録が残っていない場合は、同様に「受診状況等証明書が添付できない申立書」を作成し、その次に受診した医療機関に「受診状況等証明書」の作成を依頼します。
2番目以降に受診した医療期間の記録で初診日を証明する方法
ここでは説明のため、初診の医療機関をA病院、以降受診した順番にB病院、C病院とします。
A病院の紹介状を持ってB病院を受診した場合、B病院にその紹介状が残っていることがあります。その場合は、B病院の受診状況等証明書に、A病院の紹介状のコピーを添付することにより、初診日の証明ができます。
B病院に紹介状が残っていない場合や、紹介状を持たずに転院した場合でも、転院先を初めて受診するときには、発病からの経過や治療歴を伝えることが多いと思われます。
それを受け、B病院やC病院の医師等は、それをカルテに記載していることが多々あります。その記載が非常に重要です。
たとえば次のような記載です。
「右上肢にしびれがあり、平成◯◯年◯月頃、近医整形外科を受診」
「不眠が続き、大学2年時にA病院を受診」など
こういった記載が、障害年金を請求する前おおむね5年以上前にされている場合は、それのみで初診日を認めることができることとされています。
また、障害年金を請求する前5年以内の記載である場合は、他の資料とあわせて初診日を認定することとされています。
いずれの場合も、受診状況等証明書にA病院受診の経過を含めて記入してもらい、できればカルテの該当部分のコピーを添付します。
第三者証明により初診日を証明する方法
第三者証明とは、正確には「初診日に関する第三者からの申立書」といい、請求者の初診日の頃の受診状況を見たり聞いたりした「第三者」が申し立てることにより、初診日を証明しようとする書類です。
第三者証明を作成できる「第三者」とは
障害年金を請求されるご本人の三親等以内の親族は「第三者」と認められません。
三親等以外の親族、隣人などのほか、初診が学生時代であれば学校の教師や同級生、社会人であれば勤務先の上司や同僚などが考えられます。
「見たり聞いたりした」とは
申立てをする第三者が、請求者の通院に付き添った場合や、入院中お見舞いに行った場合、あるいは医師の注意文書等を見た場合などは、「直接見て知った」ということになります。
また、請求者やその家族などから、「◯◯科に通院し始めた」「◯◯と診断された」「医師から◯◯を止められた」など、障害年金を請求する病気や怪我により初めて受診した頃の様子を聞いたり、手紙等で知った場合などは、「聞いて知った」ということになります。
原則として複数の第三者証明が必要
原則として2名以上の第三者証明が必要とされています。
ただし、複数の第三者証明が取れない場合、受診にいたる経緯や、医療機関でのやりとりなどが具体的に示されていて、「相当程度信憑性が高い」とされれば、1名のみの第三者証明であっても認められることがあります。
第三者証明の取扱い
第三者証明は、20歳前に初診日がある場合と、20歳以降に初診日がある場合で、取扱いが異なります。
20歳前に初診日がある場合
20歳前に初診日がある場合は、保険料の納付要件が問われないこと、給付内容が障害基礎年金のみであることから、少なくとも20歳より前に受診していたことが証明できればよいということになります。
そのため、初診日を証明する書類が第三者証明のみであっても、その内容により、請求者の申立てる初診日が認められます。
第三者証明は、請求者の初診日頃または20歳前の時期の受診状況について、基本的に次のいずれかに該当する場合の申立てであることが必要です。
- 直接的に見て認識していた。
- 請求者や請求者の家族等から、初診日頃または20歳前の時期に聞いていた。
- 請求者や請求者の家族等から、請求時からおおむね5年以上前に聞いていた。
※ 20歳前に厚生年金に加入していた場合で、初診日が厚生年金加入期間にある場合は、20歳以降に初診日がある場合と同様の取扱いになります。
20歳以降に初診日がある場合
20歳以降に初診日がある場合は、保険料の納付要件が問われること、初診日に加入していた年金制度により給付内容が大きく異なることから、より厳密に初診日を特定しなければなりません。
そのため、第三者証明とともに、参考となる他の資料を提出し、両者の整合性などが確認された上で、請求者の申し立てる初診日が認められることとされています。
第三者証明は、請求者の初診日頃の受診状況について、基本的に次のいずれかに該当する場合の申立てであることが必要です。
- 直接的に見て認識していた。
- 請求者や請求者の家族等から、初診日頃に聞いていた。
- 請求者や請求者の家族等から、請求時からおおむね5年以上前に聞いていた。
いずれの場合も、「最近聞いた」という内容では、たとえ第三者証明を提出しても認められません。
第三者証明の記載事項
見たり聞いたりした当時に知った内容に基づいて、次のような項目を記載してもらいます。
- 発病から初診日までの症状の経過
- 初診日頃における日常生活上の支障度合い
- 医療機関の受診契機
- 医師からの療養の指示など受診時の状況
- 初診日頃の受診状況を知り得た状況
医療従事者による第三者証明
初診日頃に受診した医療機関の担当医師、看護師その他の医療従事者による第三者証明は、医師の証明と同等の資料として扱われ、ほかに参考資料がなくても、その証明のみで初診日が認められます。
とはいえ、初診日頃の受診状況を直接把握できない立場にあった医療従事者が、請求者の申立てに基づいて行った第三者証明では認められませんので、注意して下さい。
一定期間要件
初診日を具体的に特定できなくても、ある一定の期間内に初診日があることが参考資料で確認できれば、一定の条件のもと、本人の申し立てる初診日が認められることがあります。
初診日がある一定の期間中、同一制度に継続的に加入していた場合
初診日があると確認できる一定の期間の全てが同一制度の加入期間となっており、かつ、この期間中のどの時点においても保険料納付要件を満たしている場合、本人申立ての初診日が認められます。
この一定の期間の全てが20歳前または60歳以上65歳未満の未加入期間の場合は、同一制度の加入期間として扱われます。また、全てが20歳前に未加入期間であれば、保険料納付要件は問われません。
初診日がある一定の期間中、異なる制度に継続的に加入していた場合
初診日があると確認できる一定の期間が国民年金の加入期間と厚生年金保険の加入期間であるなど、異なる年金制度の加入期間となっており、かつ、この期間中のどの時点においても保険料納付要件を満たしている場合、本人申立ての初診日について 参考となる他の資料とあわせて初診日が認められます。
初診日は厚生年金加入期間中にあるとしても、参考資料でそれが証明できなければ、厚生年金加入期間中の初診とは認められません。
厚生年金と国民年金では、給付内容が大きく異なるため、初診日が本当に厚生年金加入期間中にあったのか、厳密に確認する必要があるためです。
なお、本人申立ての初診日が、国民年金の加入期間か、20歳前または60歳以上65歳未満の未加入期間の場合には、いずれも障害基礎年金となることから、参考となる他の資料がなくても、本人申立ての初診日が認められます。
一定期間の確認のため参考とされる資料の例
ある一定の期間内に初診日があることを証明するための資料としては、次のようなものが例示されています。
一定期間の始期に関する参考資料の例
- 請求傷病に関する異常所見がなく発病していないことが確認できる診断書等の資料
(就職時に会社に提出した診断書、人間ドックの結果など) - 請求傷病の起因とその発生時期が明らかとなる資料
(交通事故などの場合、その事故が起因となった傷病であることを明らかにする医学的資料および交通事故などの時期を証明する資料、職場の人間関係が起因となった精神疾患である場合、それを明らかにする医学的資料および就職の時期を証明する資料など) - 医学的知見に基づいて一定の期間以前には請求傷病が発病していないことを証明する資料
一定期間の終期に関する参考資料の例
- 請求傷病により受診した事実を証明する資料
(2番目以降に受診した医療機関による受診状況等証明書など) - 請求傷病により公的サービスを受給した時期を明らかにする資料
(障害者手帳の交付時期に関する資料など) - 20歳以降であって請求傷病により受診していた事実および時期を明らかにする第三者証明
初診日・障害認定日が20歳前にあることを確認できた場合の取扱い
20歳前に初診日がある障害基礎年金で、障害認定日が20歳に達した日(20歳の誕生日前日)以前である場合は、障害の程度を認定する時期は一律に20歳となります。
このため、2番目以降に受診した医療機関の、受診した事実を証明する資料に記載された受診日から、障害認定日が20歳以前であることが確認でき、かつ、その受診日前に厚生年金等の加入期間がない場合には、初診日の証明を追加で提出することなく、請求者が申し立てた初診日が認められます。